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ひびのいろいろ

つぶやきシローの物語

意外な人が小説を書いていた。ひょっとすると結構有名だったのかも知れない。その人は”つぶやきシロー”氏だ。細かい人物描写と心の動きを言語化するその芸で一世を風靡した。テレビにもたくさん出ていたと思ったが、最近はめっきり見かけなくなった。もう結構な年だろうと思う。僕も年をとったが”つぶやき”も年をとったはずだ。どうでも良いことだろうけれど。

意外なところでその人の名前を見た。きっかけはAmazonで紹介されていたからだ。小説で”つぶやきシロー”の名前をみた。あまり意外ではなかった。いつか小説とか脚本を書くんだろうな、とか勝手な思い込みをしていたからだ。そう考えた人は少なくなかったはず。

冬休みにまず最初に読んで本がこれだった。そしておそらく今年最後に読んだ本になるだろう。

結論から言うととってもよかった。実を言えば最初の1/3を読んだあたりで、途中で読むのを辞めようと思った。あまりにもつまらなかったから。つまらないというよりは”つぶやきシロー”のテイストそのまんまだったからだ。この展開で最後まで続くのならもういいやと思った。

しかし物語の中盤を過ぎたあたりから展開ががらりと変化。最後はちょっとしんみりとした気持ちにもなった。ちょっと深い物語だった。完全に侮っていた。映画がするとちょっとヒットするかもしれない。そんな物語だった。

印象に残った場面は自分の娘に声をかけられた後の主人公の心の中の呟き。

本当の答えは、褒めてほしかった、だ。 私は誰かに褒めてほしかったのだ。 娘に掌で転がされているこの感じ、悪くない。 心地のいい敗北感だ。 秋刀魚がしょっぱくなると酒がすすむから泣かないでおこう。

主人公と自分は丁度同世代。そんな主人公と現在の自分の立場とが、少しリンクして幾分感情移入してしまった。それにしても良い小説だった。