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FakePlasticTree

ひびのいろいろ

【書評】島倉千代子という人生

島倉千代子の伝記。伝記というか芸能の世界に足を踏み入れた頃からの話をまとめてある書籍。

島倉千代子という人生
田勢 康弘
新潮社 ( 1999-02 )
ISBN: 9784103967033

島倉千代子といえば「人生いろいろ」

僕の世代だとそれしか思い浮かばない人が大多数だろう。実をいうと自分もそうだ。この曲でデビューをしたものだと誤解していた。その頃ぼやっとテレビを見ていたときの印象では「随分と緊張しやすい人なんだろうなぁ」というぐらいの印象しか持っていなかったのだ。佇まい妙に儚げで壊れやすい印象を持っていた。

しかし今聞くと演歌というのはブルースだ。哀愁たっぷり。歳をとると演歌を聴きたくなる人の気持ちがよく分かる。

本書を読んで初めて知ったのだが美空ひばりと双璧を成すような大人物。日本の歌謡界を引っ張ってきた人物だったのだ。当然紅白歌合戦の出場も圧倒的な回数を誇る。

しかし当時の僕はそんな大人物だとは夢にも思っていなかった。あまり芸能界慣れしていない人なんだろうなぁと勝手に解釈をしていた。

何しろブラウン管越しに見ても、その頃の解像度の極端に低いテレビ越しに見て手が震えていた。他にそんな歌手を他に思い浮かべるとしたら中森明菜ぐらいだ。きっと繊細な人物なんだろうなぁ。と子どものポやっとした頭で考えていた。

そして実際の歌声も繊細で高温が綺麗で儚いガラス細工のような唯一無二のものだった。それは本書の以下の1節にも現れる

島倉の声は声というよりは、音それ自体に哀しみをにじませるチェロのごときものである。

著者は元日本経済新聞の政治部記者

この書籍の著者である「田勢 康弘」は芸能とは全く関係のない人物。それがまた面白い。政治部記者が島倉千代子という芸能人について書くというのはそれだけこの人が魅力的でかつ当時の日本人を代表するような人物なんだろう。

美空ひばりは「子供のくせに童謡が歌えない天才」だったんですね。でも島倉千代子はそうじゃない。この人は「大人のくせに童謡が歌える天才」なんですね

本書で出てくるこんな表現がぴったりだと感じた。そして本書で1章を裂いて描かれている美空ひばりとの比較がこれまた面白い。本書の1番の読みどころ。

演歌の歌詞のごとく決して幸せとは言えない波瀾万丈な人生を送った著者。それでも必死に歌謡界で不器用に生きた人物の生き様はしっとりと感動する。