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ひびのいろいろ

【書評】恋歌

恋歌
朝井 まかて
講談社 ( 2013-08-22 )
ISBN: 9784062185004

樋口一葉の師匠、中島歌子の生涯。水戸藩、天狗党藩士の妻となった女性の波乱の人生を描いた小説が恋歌(れんか)だ。

水戸藩の天狗党は「桜田門外の変」を引き起こした水戸藩の派閥(強硬に攘夷を主張する”激派”)を中核とした派閥。藤田東湖の息子である藤田小四郎や武田耕雲齋らを中心として、「天狗党の乱」を起こした。この乱には桂小五郎から資金提供も受けていた。この天狗党の悲劇、挙兵が失敗に終わりその後の悲劇が始まる。天狗党に参加した者のみならず、天狗党の家族をことごとく処刑してゆく。

こういった時代の流れに翻弄される人々、そしてその家族。水戸藩士に一途の想いをよせる少女である中島歌子の一途さがただ心を打つ.

恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです、忘れ方も教えてください。

君にこそ恋しきふしは習ひつれさらば忘れることもをしへよ (P3565.kindle)

あの日、筑波山の麓に広がる菜の花畑を見晴るかしながら、私は己の返歌を恥じた。型どおりの、何の膨らみもない歌。なぜもっと、己の心を三一文字に注ぎ込まなかったのだろう。戦場の夜も昼もあの人の胸で響き続けるような、そんな言葉をなぜ捧げられなかったのだろう。己の拙さを心底、悔やんで、もし本当に江戸に辿り着けたなら和歌を学ぼうと心に決めた (P3553.kindle)

幕末というと何かと男の浪漫と結びつけられ、「日本の素晴らしい時代」のように捉えられがちであるが、なんと残忍で凄惨な時代であろう。国内における内乱というのは悲劇的であるというのが良くわかる。特に水戸藩は酷い地域で「諸生党」と「天狗党」の闘いは凄惨だった。本書にも思わず読むのがためらわれるような箇所が何度かある。

財政豊かな加賀藩は人気おおらかと聞く。温暖な薩摩や長州も懐は豊かや。けど、水戸は藩も人も皆、貧しかった。水戸者は生来が生真面目や。質素倹約を旨とし過ぎて頑なになって、その鬱憤を内政に向けてしもう (P3377)

水戸は薩長のような老獪さを持ちませんでした。...強いていえば、大志のためには小異にこだわらぬことができませんでした。その偏狭さゆえに内紛を収められず、自滅しました。かように存じます。 (P3373)

それ程までの内乱を引き起こしてしまった原因は上記のような部分にあるのだろう。明治維新に向けて貴重な人材が何人もこの地で失われたのだろう。それを思うと残念でならない。

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