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ひびのいろいろ

【書評】久しぶりの椎名誠_「ぼくがいま、死について思うこと」

椎名誠は10代の終わり頃、丁度僕が浪人生から大学生にかけて読みあさっていた作家だ。

特に「哀愁の町に霧が降るのだ〈上巻〉 (新潮文庫)」は最高に気に入っていたノンフィクションで、椎名誠という類い希な人物の魅力が凝縮した本だった。その底抜けに明るく皆に慕われている姿はその当時の自分と真逆で、それが本当に羨ましくでも爽快だったんだろう。

 椎名誠の本といえば「沢野ひとし」のヘタウマな挿絵。そして冒険して焚き火をして仲間と酒を飲むという

生活を描く作家(偏見か?)と考えていた。しかしたまたま昨日飛行機に乗る前に購入したこの本はちょっと違った。!

椎名誠と死

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この本は前述した「沢野ひとし」の挿絵や冒険の面白おかしい話は出てこない。死について著者が考えていること、自分の親友の自死、世界各国の死体の埋葬方法、自身の病気(鬱を煩っていることを僕は初めて知った)などについて切々と語る。

そして後書きではこどもの自死に対しての著者の考えと移ってゆく。自身も子どもの時にいじめに遭い兄から

「おまえはこれから毎日その卑怯な奴らの家にいって一人ずつ報復しろ。勝っても負けてもいい。とにかく1人ずつ報復しろ」

と言われ本当にその通り実行したという。それが出来る(やってしまうところ)が椎名誠の凄いところだ。しかしそんなこどもは滅多にいない。そんなこどもはやっぱりどこでも生きていけるだろう。

しかし椎名誠はやっぱり優しい。

それと同時に、いじめで苦しんでいる子どもに「今君がいる世界は人生のなかのほんの瞬間のような一時期」なのであって、しかも君のいる「いじめられている」世界はまったくちっぽけな”点”のような空間でしかなく、その周辺の四方八方にはもっともっと途方もなく大きな世界が広がっているんだよ!ということを知らせてあげる、という導き方があるんではないか。

こういう文をさらりと書いてしまう辺り、多分この著者が書くと格段に説得力が増すところもあるんじゃないかとかんじるが、やっぱり僕は椎名誠が好きだ。結局このようなメッセージを伝えるためにこの本を書いたのではないかとも思う。良い本であった。

ぼくがいま、死について思うこと
椎名 誠
新潮社 ( 2013-04-26 )
ISBN: 9784103456216